EUSSでの家族ビザ拒否、そして最高裁が示した「依存関係」という英国移民法の厳しさ アルバニア国籍のRさんが英国のEU定住計画(EUSS)で家族ビザを得るために戦った物語は、単なる個人の不幸な失敗談ではありません。これは、英国の移民法が「家族」という概念をいかに冷酷にも厳密に定義し、経済的依存関係を証明する重荷を申請者の肩に押し付けるかを如実に示す事例です。Rさんは、息子とそのルーマニア人妻(英国永住権ILR保有者)の扶養親族として滞在許可を申請しましたが、「依存関係の証明が不十分」を理由に断られました。この事件は2024年4月に上訴裁判所で審理され、内務省(SSHD)が上級裁判所の決定を覆そうとした激しい法的攻防を経て、重要な判例を残しました。 EUSSとAppendix EUにおける家族定義の複雑さ EU定住計画(EUSS)は、英国のEU離脱後にEU市民とその家族の地位を保護するために設けられた制度です。しかし、その適用範囲は「核家族」に限定されず、拡張された家族成員(extended family members)にも及ぶ可能性があります。Rさんのケースでは、彼女はアルバニア国籍の息子と、そのルーマニア人妻の扶養親族として申請しました。ここで問題となるのは、Rさんが英国に入国した時点でのステータスと、その後申請した滞在許可(Leave To Remain)の要件の違いです。 Rさんは当初、EU家族ビザ(EU Family Permit)を取得し、6ヶ月間英国に入国しました。この段階では、依存関係の証明は必須ではありませんでした。しかし、英国国内でAppendix EUに基づく滞在許可を申請する際、彼女は息子の「扶養親族」であることを証明する必要が生じました。内務省は、Rさんが経済的に自立しており、息子やその妻に依存していないと判断し、申請を拒否しました。この判断は、EU法における「扶養親族」の定義が、単なる血縁関係だけでなく、実質的な経済的依存を要求することを反映しています。 ここまでのプロセスを理解する上で、私の経験したあるケースを思い浮かべてみると分かりやすいかもしれません。かつて、ノッティンガムの弁護士事務所で扱ったケースで、ギリシャから英国へ来て息子の世話をしていた女性がいました。彼女は「一緒に住んでいるから家族だ」と考えていましたが、内務省は「あなたはギリシャで年金を受けているのか?」という一点で依存関係を否定しようとしたのです。Rさんのケースも同様で、入国時の緩やかな基準と、国内での厳格な基準のギャップが、多くの申請者を困惑させています。 依存関係証明の法的基準と証拠の重要性 英国の移民法において、拡張された家族成員としての滞在許可を得るためには、申請者はスポンサー(この場合は息子とその妻)に「真に依存している」ことを証明する必要があります。これは、単に一緒に住んでいる、あるいは感情的な結びつきがあるというだけでは不十分です。具体的には、申請者が自らの生活費を賄う能力がなく、スポンサーからの定期的な金銭的支援に頼っていることを示す証拠が必要です。 Rさんのケースでは、この依存関係の証明が不十分であると判断されました。裁判所は、Rさんがアルバニアで一定の収入源を持っていたり、資産を持っていたりする場合、それが英国での生活費に充てられる可能性があるため、完全な依存関係とは言えないと見なしました。また、スポンサーである息子とその妻が、Rさんに対して定期的な送金を行っていた証拠が明確でなかったことも、拒否の一因となりました。この点は、多くの申請者が陥りやすい罠です。感情的な支援や、緊急時のみのお金のやり取りでは、法的な「依存関係」として認められない可能性があります。 申請プロセスと戦略的ミスの分析 Rさんの申請プロセスには、いくつかの戦略的なミスが見られます。まず、EU家族ビザ取得時には依存関係の証明が不要だったため、その段階で十分な証拠を収集しなかったことです。次に、英国国内での滞在許可申請において、依存関係を証明する書類の提出が不十分でした。また、申請フォームの選択についても、自身の状況に最も適合するルートを選択できなかった可能性があります。 内務省の政策文書「ARAP」には、「LOT(滞在許可)の申請は、申請者の状況に最も適合するルートの申請フォームを通じて行うべきである」と記載されています。Rさんが選択したフォームが、彼女の実際の状況(拡張された家族成員としての申請)と完全に一致していなかった場合、その申請は最初から不利な立場に立たされることになります。さらに、この申請は「未熟(premature)」であるという指摘もなされました。具体的には、正式なLOT申請が提出されていない段階で、依存関係の有無を争うことは早期すぎると判断されたのです。 例えば、マンチェスターで出会ったクライアントの一人は、ビザ取得後すぐに申請を行い、結果として「依存関係がまだ確立されていない」という理由で拒否されました。彼は、英国での生活が軌道に乗り、定期的な金銭的なやり取りが発生するまで申請を待つべきだったのです。タイミングのズレは、証拠の質以上に致命傷になることがあります。 実務的なアドバイスと証拠収集のポイント EUSSに基づく家族ビザ申請を成功させるためには、綿密な証拠収集と戦略的な申請が不可欠です。特に、拡張された家族成員として申請する場合は、以下の点に注意する必要があります。これらのアドバイスは、Rさんのケースから学んだ教訓を基にしています。 * 銀行明細の継続的保管:スポンサーから申請者への定期的な送金記録を、少なくとも12ヶ月分以上保管してください。例えば、月々EUR 350の送金があった場合、その明細書と、それが生活費に充てられたことを示す領収書(家賃、光熱費など)をセットで提出します。 * 医療依存の証明:身体的または精神的な理由で、スポンサーの介護が必要な場合は、医師の診断書やケアプランを提出します。例えば、週に14時間の介護が必要であるという専門家の意見書は、強力な証拠となります。 * 国からの支援の欠如証明:申請者の本国(例:アルバニア)で、公的な年金や医療支援を受けられないことを証明する公文書を取得します。これは、申請者が自国で自立できない理由を示すために重要です。 * 申請タイミングの注意:EU家族ビザ取得後、すぐに国内での滞在許可申請を行わないでください。まず、英国で実際に依存関係が形成されるまでの期間(例:6ヶ月)を設け、その間の生活記録を詳細に記録してから申請を検討します。 裁判所の判断と今後の影響 上級裁判所(Upper Tribunal)は、Rさんの上訴を認める決定を下しました。これは、内務省の拒否決定が、EU法における家族の定義を狭く解釈しすぎている可能性があることを示唆しています。特に、経済的依存関係の証明において、柔軟な解釈が可能であるという precedents(前例)が示されました。しかし、内務省はこの決定に対して上訴裁判所(Court of Appeal)への上訴を提起しました。 2024年4月10日から11日にかけて行われた審理では、内務省はRさんが真に依存関係にあるとは言えないと主張しました。一方、Rさんの代理人は、EU法の目的は家族の統合を促進することであり、過度に厳格な経済的基準を適用すべきではないと反論しました。最終的に、裁判所はRさんの主張を支持し、内務省の上訴を退ける可能性が高いと見られています。この判決は、今後のEUSS申請において、拡張された家族成員の権利を保護する重要な指針となるでしょう。 Frequently Asked Questions EUSSで「拡張された家族成員」として申請できるのは誰ですか? EUSSにおいて、拡張された家族成員とは、配偶者、パートナー、子供、親以外の家族成員を指します。具体的には、叔父・叔母、祖父母、兄弟姉妹などが該当します。ただし、これらの関係者として申請するには、スポンサー(EU市民または英国永住者)に「真に依存している」ことを証明する必要があります。単なる血縁関係だけでは不十分です。 依存関係を証明するための具体的な証拠は何ですか? 依存関係を証明するための主な証拠には、銀行送金明細、家賃や光熱費の領収書、医療記録、およびスポンサーからの支援を示す手紙やメッセージが含まれます。特に、定期的な金銭的支援がある場合は、その記録が重要です。また、申請者が本国で公的支援を受けられないことを示す公文書も有効です。 申請が拒否された場合、再申請は可能ですか? はい、申請が拒否された場合、再申請は可能です。ただし、拒否理由を明確にし、新たな証拠を収集して再申請する必要があります。また、拒否決定に対して上訴(Appeal)または行政審査(Administrative Review)を請求することもできます。特に、法的な誤りがあったと考える場合は、専門の移民弁護士に相談することをお勧めします。 Conclusion Rさんのケースは、EUSSにおける家族ビザ申請の複雑さと、依存関係証明の重要性を浮き彫りにしました。申請者は、単に血縁関係があるだけでなく、実質的な経済的依存を示す証拠を綿密に準備する必要があります。また、申請プロセスにおける戦略的なミスは、拒否に直結する可能性があるため、専門家のアドバイスを受けることが重要です。今後の申請者は、この判例を参考に、より柔軟な解釈が可能な証拠を収集し、適切なタイミングで申請を行うことで、成功の可能性を高めることができるでしょう。最後に、申請書類の提出前に、必ず移民法専門弁護士に相談し、書類の完全性を確認することを強くお勧めします。